(前回はコチラ)
スヌーピーおじいちゃんに連れられること5分ほど。
スナックなどが入る雑居ビルの奥にその店はあった。
古い廊下を通る際、ここは絶対ひとりじゃ来ないな、と思った。
スヌーピーおじいちゃんが扉を開けると、キラキラしたミラーボールが目に入った。
しかし店内には誰もいない。
「おうい」とおじいちゃんが声をかける。
店のバックヤードから女性が一人出てくるのが見えた。
女性は僕に「アンタダレ?」と聞いた。こっちのセリフだ。
「お客さんだよぉ」とスヌーピーは言った。
のんびりとした顔がだんだんスヌーピーに見えてくる。
女性は「オー!イラッシャイ!」と笑顔になり、席に案内してくれた。
おじいちゃんは「じゃあねぇ」とまた外へ出て行った。帰ったのか?
「あのー、ここはなんの店ですか?」と尋ねてみる。
店内はカウンターと後ろにボックス席がいくつかある、絵に描いたような昭和のスナックといった印象だ。
「ここはね、フィリピンラウンジヨー」と女性は笑顔で答えた。
そういうジャンルがあるのか。
女性は60代ほどだろうか。どうしても年齢は感じるが、明るいグリーンのドレスで着飾った姿は美しい。老舗スナックのママのような姿で、僕のグラスに氷を入れている。
うーん、なんか思ってたのと違う。少なくともお姉ちゃんではないが、まあこれはこれでいいか、と思った。
ママはことあるごとに「3000円でイイヨー」と言ってくるし。
最初に頼んだハイボールをもらって一呼吸ついたあと、「さっきのおじいちゃんは?」と聞いてみた。
「あれは常連さんネ」とママは微笑んだ。
店が暇な時に客引きをしてくれているらしい。どんな店やねん。
その後、ママはいろいろ話してくれた。
40年前にフィリピンから出稼ぎで来たこと。
こっちで知り合った日本人と結婚して、価値観が合わずにすぐ離婚したこと。
5年前に帰省したのを最後に、コロナ禍も相まって母国に帰れてないこと。
「ほんとはネ、フィリピン帰ってお店したいのヨ」とママはポツリとつぶやいた。
「でもこっちの生活があるからネ」
少し寂しそうな横顔が見えた後、ママは「オ!グラス空っぽネーおかわりネー」と笑顔でウィスキーの瓶を開けた。
気がつけば2時間経っていた。あっという間だった。
時間だからと帰ろうとする僕にママは「これよかったら食べてみてネーお酒と合うヨ」とフィリピンのスナック菓子を2つくれた。
僕は笑顔で感謝を伝えて店を出た。
あの時おじいちゃんについて行ってよかったと思えた。なんだか良い店に出会えた気がする。
ホテルまでの帰り道は、細雪が舞っていた。
雪を顔に受けながら、またいつか来れたらいいな、と思った。
この旅を終えて、学んだことが2つある。
スナック帰りの細雪はどこか寂しさを満たしてくれるということと、
フィリピンのスナック菓子は僕の味覚には全く合わない、ということだ。